SSブログ
訪問して下さった皆さん、本当に有り難うございます。 このブログは、わたくし、花人街道が何気に思ったこと、感じたことなどを気ままに綴っています。 読んだ感想などを寄せていただけると、とても嬉しいです。

幻の動物園 [日記]

カーネーション.jpg

皆様、こんばんわ。
今夜も「あの日のような今日」に御訪問いただき有り難うございます。
昨日の「母の日」、皆さんはどんな贈り物をされたのでしょうか?
花人街道の母は、今年70歳になりました。
幸い大病もせず、元気に暮らしております。
そんな母に僕はピンクのデコレーションをあしらった母の日ケーキをプレゼントしました。
甘い物が大好きな母は、ゆうに4,5人分はあるだろうそれを、あっという間に食べてしまいました。
どうもプレゼントの選択を誤ったような気がしてなりません・・・。

昨日のそんな出来事を思い返していたら、昔聞いたひとつの物語を思い出しました。
記憶の中に甦った物語は、こんなお話しです・・・。



それは、昔のお話し・・・。
真っ暗な吹雪の夜、山奥の山荘に一人の少女が訪ねてきます。
寒さに凍える手に白い息を吹きかけ、彼女は重い扉の前にたたずみました。
そこは医学博士として名高いクロトメ博士の研究所兼自宅だったのです。

「クロトメ博士、クロトメ博士」

少女は一心に重い扉を叩き続けます。

やがて小屋の奥から一人の男の声が

「誰か私を呼びましたか?」

「開けて下さい。お願いします」

「どなたですか、こんな夜中に」

不信に想いながらも男は扉を開ける。
そこに立っていたのはまだあどけない一人の少女でした。

「こちらクロトメ博士の研究所ですよね」

「いかにも私がクロトメですが」

「よかった。こんな山の中までやって来た甲斐がありました」

彼女の思い詰めたような表情に博士は何かただならぬものを感じるのです。

「まあ、とにかく中にお入りなさい」

そう言って彼女を部屋に招き入れた博士は、改めて娘の様子をうかがいます。

「まあ、お茶でも一杯如何ですか」

「いえ、そんな猶予はありません。今夜中にして貰いたいのです」

「それはまた、随分急ですな・・・」

「母が重病なんです」

彼女は悲しそうに目を伏せる。

「それはまた、お気の毒に・・・。私でお助けできるでしょうか?」

そう申し出た博士に娘は意外な返事を返します。

「博士に助けていただきたいのは母ではなくこの私なんです」

「あなた?とても元気じゃありませんか」

彼女は一瞬ためらった後、博士の顔を見詰めきっぱりと言うのでした。

「私の顔を変えて下さい」

「あなたの顔を?」

驚いた博士はそう問い返します。

「私の顔を変えていただきたいのです」

「・・・。」



彼女は話し始めます。

「母は私が生まれる前に毎日繰り返しこう言っていたんです・・・
 雪のように白い肌、血のように赤い唇、そして黒炭のように黒い髪 を持った子供が欲しいと・・・」

「まるで白雪姫ですなぁ」

「白雪姫?」

「ええ、白雪姫が生まれる前、王妃様はそうお願いしていたでしょう」

「そうです。そして白雪姫は王妃様の願い通りに生まれました。でも私は違う。母の願い通りの子ではありません。
博士、せめて私、母が死んでしまう前に母の夢を叶えてあげたいんです。最後の最後に自分の思った通りの美しい自分の娘の顔を見て、母はほっとするに違いありません」

「あなたは、あなたじゃないですか」

「でも、母は醜いと言うんです」

話し終えた娘は真剣な眼差しで博士を見詰めます。
彼女の表情をうかがっていた博士は思います。
誰もこの娘の決意を変えさせる事は出来ないだろうと。
そして一つの決断をするのです。

「はぁ、・・・解りました。
本当にあなたの顔を変えてしまって良いんですね?」

「はい」

「二度と元へは戻れませんぞ」

「はい」

「出来る限りのことはやってみましょう」

「有り難うございます博士」

ここへ来て初めて嬉しそうに笑う彼女。
その笑顔はとても可愛らしく、突然美しい花が咲いたかのようでした。

「雪のように白く、血のように赤く、黒炭のように・・・でしたな」


「ちょっと寒いけど窓を開けて良いですか」

そう尋ねた娘は観音開きの小さな窓を押し開けます。
外は漆黒の闇、激しい風に雪が舞い踊っています。

「おお、さむいですねぇ」

「博士、灯りを下さい」

「あぁ、すごい吹雪だ」

「辺り一面真っ白。これが肌の色なんですね」

彼女は夢見るようにつぶやく。

「黒炭も在りますよ。山小屋暮らしには重宝しています」

「そう、これが黒炭の黒」

「真っ赤な唇は黒炭の火のようなものでしょうか」

そう言った博士の言葉を急いで否定して娘は言います。

「いいえ違います。先生ナイフ在りますか?」

「ん?何に使うんですか」

「貸して下さい」

「どうぞ」

博士が差し出すナイフを彼女は受け取ります。
そして・・・、

「うっ!」

「あっ、何をするんです君、ナイフの刃を握るなんて」

「いいえ、博士よく見ておいて下さい」

「そんなことをしたら雪の上に血が・・・」

「こんな色なんでしょうか博士?
母の言う血のように赤くはこんな色でいいんでしょうか?」

痛みをこらえながら彼女は問い続けます。

「充分、もう充分です。よく解りました。君・・・」

驚いた博士は急いで窓を閉め、娘を側の椅子にかけさせます。

「今夜中に出来ますか?」

「やってみましょう。あなたの決意はもう充分解りましたから」






「本当に良いんですね」

「はい。母もきっと喜ぶでしょう」

最後に博士はもう一度彼女に尋ねます。

「もう一度言います。今の顔には二度と戻れません。良いですね?」

「はい」

「では、始めますよ」

「生まれる前に・・・」

「ん?何ですか」

「生まれる前に博士にお会いすべきでした。そうしたら生まれた時から綺麗な顔で・・・」

「さぁ、おしゃべりはもう止めて下さい。それに涙も。後で一杯泣くことも出来ますから」




物語はこれで終わりです。
実はこの物語、昔NHKのFMラジオドラマで放送されたものなのです。
小野小町作、「幻の動物園」という作品をラジオドラマにアレンジしたものです。
ドラマは多くを語らず、でも最後にこう締めくくっています。


白雪姫のお母さんはどんな子供が生まれたとしても、きっとあるがままの彼女を愛したに違いない、そんなもんだよと・・・。



その動物園には黄金のプレートが掛かっている。
それは決して取り外されることのないキラキラ光る金のプレートだ。
ひとつの動物に一つずつ、忘れられない名前を刻んでいる。
・・・けれど、僕にはそれが読めない。
キラキラ光る輝きだけが落とせなかった涙のように瞳の奥へと消えていく・・・。




nice!(7)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 7

コメント 2

kaoru

おはようございます。
母の日の素敵なプレゼント
お母様が喜んで下さって良かったですね。
元気で居て下さるのが何より嬉しいですよね。
何歳になっても親にとっては子供のままで
母親の深い愛情と言うのが有り難くて
感謝してもしきれないですよね。
by kaoru (2009-05-12 09:19) 

花人街道

kaoru様

お早うございます。
kaoruさんのお母さんは、お元気でいらっしゃいますか?
一輪の花でも、気持ちをこめれば素敵なプレゼントになる。
けれどもうちの母は、プレゼントは甘い物が一番!

と、のたまいます。(>_<)
by 花人街道 (2009-05-14 05:49) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

嵐山を泳ぐ鯉街の灯り ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。